瓜生 祐子 URYU YUKO
食欲を満たすだけではなく、見た目も「美味しい」食べ物には、たくさんのイメージが散りばめられている。
目の前のお皿を眺めるとき、それはまるで大海に浮かぶ島のように、ある時は広大な山脈のように見える。
緻密な線描と淡い色使いで描くのは、食べることを超越した想像の世界。
甘党のあなたも、食いしん坊のあなたも。きっと知的好奇心と食欲をそそられることでしょう!
gallery neutron 桑原暢子
瓜生祐子の作品と初めて出会ったのはArt Court Frontier #6(アートコートギャラリー/大阪)での展示だった。私が大好きな作家も参加しているということもあり、会場内をうきうき気分で見てまわっていた。力強い大作が並ぶ中、ひと際こじんまりとした展示があった。彼女の作品たちだ。丸いパネルに惹かれて近づくと、小さな円の中にきらきらと輝く広大な世界が描かれていた。淡い色合いに緻密な描写でその細部をもっと近くで見たい、そう思わせるきらめきだった。近づけば近づく程、その世界はどこかの地形を描いた風景画へと変貌し、それはまるでムーミン谷・単行本巻頭に付いている地図のようなのだ。スケール感はまるでちぐはぐだが、この道を行けばムーミンの家に到着することや山を越えれば妖精達が踊る谷に出ることだけがわかるその世界ならではの地図。そんな世界を彷彿とさせる絵だった。素材が気になりキャプションを確認すると、タイトルには「curry and rice」の文字。「カレーライス…カレーライス……カレーライス?」ともう一度作品へと目を運ぶ。「カレーライス!!」突然後ろから頭を殴られたような衝撃が走った。そう、彼女の作品は綺麗に盛りつけられたお皿の中の世界なのだ。
料理とは、栄養を摂るためにはもちろん欠かせないものであると同時に、心を潤すものでもある。お皿に綺麗に盛りつけられた料理と一緒に、友達や家族との楽しい会話など、食事とは決して栄養を摂るためだけではない。ケーキなど甘いものともなればもはや楽しみでしかない。などと言ってしまうとパティシエに怒られてしまうかも知れないが、やはり食事もケーキも「目で楽しむ」ということがとても大切なのだ。そんな目で楽しむお皿の世界を彼女は描く。ただ彼女はカレーライスそのものを描いていない。正確には食べ物の景色を描いている。一皿に盛られた料理の中に広がるその景色は、彼女にとってじゃがいもは山となり、ソースは海になる。谷もあれば湾もあり、時には川までもが流れている。その世界はとても豊かな土地で私たちを包み込んでくれるような優しさに満ちている。
料理を景色へと変貌させる。彼女の作品は遠回しに私たちが今この地球に生かされていることを気付かせてくれる。瓜生の作品とご飯。彼女の作品を見て料理を見ると不思議と地形に見えてくる。その地形は人それぞれ違うかも知れない。お皿の中の地球を食べながら、変わりゆく景色を眺めてみる。そこはとても優しくも儚い風景になるだろう。