煙突からモクモクと噴出する「煙り」をモチーフにユニークな立体作品群を生 み出してきた作家が、今回選んだのは「トンソク」。肉屋にぶら下がるあの物体の形 状や連結部分に着目し、立体とドローイングで考察する。
gallery neutron 代表 石橋圭吾
この展覧会のご案内としてのDMを見て、「何だろう?」と素朴な疑問を抱く人も多いだろう。この絵は友繁の制作展開におけるドローイングとしての作品なのだが、実にユニークで作家の意図する「形態」を端的に表していると思う。これは一枚でも完結するものでありつつ、額装されたものを縦あるいは横に列ねることによってイメージを連結・増幅することも出来る。前回個展の際も「煙り」をモチーフとしたそのような連結ドローイングと、それを具体化した本来の立体作品との比較が楽しめた。今回も同様に、あるモチーフのドローイングと立体作品が登場する。そのモチーフとは・・・「トンソク」つまり「豚足」である!
ここ数年、「煙り」という本来不定形であるものを定形(立体作品)として制作してきた友繁だが、もっと遡れば様々な「形」を考察し、楽し気な作品を発表してきた。「煙り」は煙突あるいは筒状の何かから発生し、時として野外のインスタレーションとしても存在し、その単純な見た目の面白さはもちろん、「煙り」という不定形な気体を固体として色々な角度から眺めることにより、「見立て」(=違った何かを連想させること)の機能を果たして来た。いや「煙り」だけでなく、友繁が作家として見せたいものとは彼女が差し出す形そのものではなく、そこからイメージするという行為であったり、各自の想像力の先にある実に様々な記憶や想い出であったりするのである。では今回の「トンソク」は、従来の煙りとは少し趣を変えた感もある。もともと「豚足」は固体であり、実体を伴っている。その点においては雲や煙りと違いはあるものの、では私たちが「豚足」をイメージする時、「絶対的にこうである」と言い切れる形は想起出来るだろうか?やはり出来ない。それは動物の部位でありながら私たちにとってはお肉屋さんの一角に吊るされている漫画的なアイコンとして馴染み深いのであり、例えば「はじめ人間 ギャートルズ」に登場する骨付きの旨そうな肉の塊のごとく、実際の形状よりもディフォルメされて脳裏に焼き付いている。さりとて今回は友繁はその部位に対してかなりの入れ込みをもって形状を考察し、さらには「豚足」は軟骨によって繋がっている、つまり連結しているという事実を感動的に伝えようとしている!ここで見逃せないのが「連結」というキーワードであり、それはもちろんドローイングでも表され、今回は立体作品としてのそれにも大きく反映される。その連結部分の軟骨の形状は一段と不可思議なものであり、もはや私たちが適当にそれを描いても何となく当てはまりそうな感じもするが、実際は精巧なパズルのごとく1個1個が実に多様で、その形状しか許されない。在り方は自由だが、結びつきは一つ。何だか人間同志の関係性にもあてはまりそうな、奥の深さではないか。
今回はさらに、友繁の友人であり作家である桐田史恵によるライブパフォーマンスも予定されている。ゴロリと横たえられた「トンソク」を眺めながら私たちはその形、繋がり、存在を思い、ちょっとお腹を空かせながら繰り出される言葉に耳を傾ける。「人はパンのみに生きるにあらず」では無いが、「トンソク」を見て何を思う?