neutron Gallery - トランクコンピュータ 展 - 
2005/12/19 Mon - 31 Sat gallery neutron kyoto


子供の頃夢見た未来は、もっと素晴らしい光景だった。
環境、エネルギー、テクノロジー、そして人間の抱える様々な問題を乗り越え、「モノつくり少年」の夢は今花開こうとしている。
アートにとどまらず幅広いジャンルに無限の可能性を感じさせるプロジェクト、今ここに立ち上がります。





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gallery neutron 代表 石橋圭吾

 もし美術というものが自らの枠を縛り付け、異分野との接点を拒否するものならばこれからの時代に必要とされることは無いだろう。言わずとも、日常の美意識に新たな価値観を投じること、そのアイデアを他者の追随を許さぬ次元で具現化するのが美術作家の役目だとするならば、ここに紹介する中西寿道はそんな作家の一人としても存在し得る。しかし彼の具現化すべきはもっと大きな夢である。そしてそれは「トランクコンピュータ」という親しみ易い名前を付けられたプロジェクトに集約されようとしている。
 中西寿道は奈良で生まれ、静岡にて工場勤務をする傍ら自身の発案による制作活動を始める。それは時と場所を変え、あるいは表現形態を変え、ゲリラ的に行われた感もあるが、彼の「ものづくり」に対する姿勢はこの頃から既に形成されつつあった。身の回りの素材を用い、ふとしたアレンジを加えて再提示される「作品」は「もの」の価値を別角度から眺めることを要求し、一方で素材から作品に至るまで一貫して「もの」に対する愛着を持ったものであった。フェティシズムというよりは、「もの好き」。例えば幼少の記憶に、公園でどんな石ころでも枝葉でも遊び道具に変わったように、イメージとアイデアがあればそこに存在する「もの」の役割、存在価値は無限に広がる。しかし私達は大人になるにつれ、そういったイメージの大切さを日々少しづつ忘れ、コマーシャリズムにのっとって提案される「もの」とその使い道に頭を束縛される。それを覆すのは容易ではなく、やがて「用途」と「もの」は一元的に一致したものでなければならないように感じる。もちろん、そうでないものもある。ブランドや稀少価値といったものは「もの」本来の質量的価値を大きく超えてアピールし、私達に高額の金銭を用意させることに長けている。しかしそこに存在するのもまた既製のアイデンティティーであり、私達が石ころに見たあらゆる可能性とは程遠い。そうやって、「もの」とはどんどんつまらなくなってきてしまったように思える。先述のとおり、今の世において「美術」の為すべき大きな仕事の一つは、日常の美意識に一石を投じることだとすれば、つまりは人間の出来上がった生活スタイルに違和感を与えることとも言える。しかし美術自体も自らを見慣れた光景に埋没させる危険性を孕んでいる。現代美術という言い方すら日常的に聞こえるということはすなわち、既にその役目を終えようとしているとも言えなくはない。だが本質は決して無くならないし、無くすべきではない。新しいものは時として妙に懐かしくも登場するし、私達がそれに気付かないでいることも多いのだ。だからこそ、「もの」と向き合って私達が考えるべきことは、あまりにも多い。
 2000年にインディーズコンピュータメーカーとして「トランクコンピュータ」を発足させた後、京都に移り住んだ中西は2004年にはプロジェクトを邁進すべく会社を立ち上げ、自らが代表取締役兼「モノづくりコンポーザ」に就任する。「もの」としての「トランクコンピュータ」は現時点で単なるボディーに過ぎない。言わばからっぽの箱である。しかしそこには誇らし気にロゴマークが付けられ、愛嬌も感じさせるなかなかの面構えである。手に取って、あるいは四方から眺めてしばし考える。「これはいったい何をするものなのだろう?」と。それこそがこのコンピュータの最大の能力なのかも知れない。つまり、人間に想像力を取り戻させること。ユビキタスのように見えないコンピュータが現れる世界において、朴訥と「もの」として存在するそれはどこか懐かしく、それでいて未来を感じさせる。私達が「もの」を愛する前提としてその形態がまっ先に挙げられるだろうが、その要件は既に満たされてもいるようだ。では、ここに搭載されるべき機能は・・・。
 ここからがいよいよプロジェクトの命運を握る部分になろう。プロデューサーであり「トランクコンピュータ」の生みの親でもある中西は、その可能性をいささかも狭めようとしない。ありとあらゆる可能性をワクワクしながら模索してきた結果、現時点ではその能力は決定されていない。リビングに、車に、あるいは名前の通りトランクに入れて使われるのも良い。インターネットに接続できて、スケジュール管理のできるツールとなるのも良い。しかしもっともっと大きな夢がここには搭載されるべきなのだ。大阪の町工場が持てる技術を出し合ってロボットを作るように、大人になっても「ものづくり」の魅力を忘れず、少年の頃の夢を実現しようとする心が何より美しい。ニュートロンとしてこのプロジェクトのスタートに関れたことは、皮肉にも普段目にする「美術」以上に「ものづくり」の喜びを感じる瞬間でもあった。
 さあ、あなたはこの箱に、どんな夢を詰めてみたいですか?