neutron Gallery - 村井 美々 展 - 『 きのこ日記 』
2006/6/12 Mon - 25 Sun gallery neutron kyoto
ニュートロンアーティスト登録作家 村井 美々  (アニメーション)

御存知、アニメーションで世界を幸せにする村井美々が今年も登場!  
またしても世間をあっと言わせる驚きのローテク・アナログファンタジーは老若男女幅広い支持を集めファンを拡大中。新作となる今回の作品は漫画的描写と塗り絵のような隙間が特徴の新展開。
壁一面には原画プリントがずらり。映像作品とグッズの販売も!



2000年 3回生制作展 (京都市美術館) 「チャネリング」


comment
gallery neutron 代表 石橋圭吾

 恒例となった村井美々の個展は彼女にとっても1年数カ月を経て、久しぶりのものとなる。普通の作家であれば「久しぶり」とは形容しがたいペースではあるのだが、村井のそれまでの超ハイペースな制作と発表を考えると最近はゆったりと活動しているようにも見える。しかしそう見えるだけであって、相変わらず旺盛な制作意欲とアイデアは尽きることなく、しかもそれらが社会の中で発揮される様になってきた。言い方を変えれば、彼女はアニメーションを始めとする自らの制作活動を通じて社会とコミュニケーションを図り、見事に受け入れられていると言う事だ。それは作家という人間にとってとても理想的な事であり、一方でとても難しい事でもある。
 村井美々の今までの制作の流れをざっと見て行くと、まず出自となるのは実は版画である。しかし彼女は版画というものを広い視点で捉え、写真(これを版画的に理解することはそんなに難しくない)を用いたアニメーションを作りはじめる。手法としては一画面(一枚の写真)の上に絵具で絵を描いていき、その課程をデジタルカメラでコマ送り撮影する極めて簡易な手法なのだが、それがこの作家の最初のブレイクのきっかけを生み出す。これだけハイテクが溢れて若い世代の生み出す最先端の技法・表現が見られる中、彼女の様に至ってアナログで「ローテク」とも言える作風は逆に新鮮味を持ち、しかもストーリーがはっきりしないのに何故か見る者を捉えて離さない場面転換の妙、味のある絵は老若男女を魅了することに繋がった。いくつかのDVDも市販され好評を博し、活動の範囲はアートの領域だけでなくデザインやイラストレーションに拡大され、多くのコンペでの受賞も数知れない。大学卒業前後のこの時期は彼女にとって一つのピークでもあったのだろうが、それはまだ表現の先行きを考えれば不安も抱かずにはいられなかった時期でもある。
 しかしそんな心配を、彼女は着実な成長をもって打破していく。発表のペースこそ落ち着くが、それでも毎年の個展は欠かさず、しかもその発表の度に次々と新境地を開く。ニュートロンでも数多くの発表をしているが、個展では白黒のマグネット式おもちゃ「せんせい」を使ったアニメーション(これは今回の新作にも実は繋がる)、水彩絵具を使ったアニメーションなど必ず周囲の期待を良い意味で裏切る作品を打ち出し、過去の自分の色(テイスト)に縛られない作家像を築く。初期のアニメーションの印象が強く残る方も多いだろうが、実は村井の作風は実に多彩で、表現の手段としての幅が広いのだと気付くことになるだろう。
 そして今回の新作は、まるで「漫画」的であり、あるいは「塗り絵」でもあるかの様だ。実はそのどちらも正しい。色は制作時点では付いていないが、漫画で言う「スクリーントーン」のようなパターン柄が施されている。もちろんアニメーションとして動くが、あくまでもイメージの積み重ねであってストーリーは無い。あたかも色を塗られるのを待っているかのような、隙間のある作品と思える。そう、その隙間があるからこそ、子供達だけでなく私達は彼女の作品に自由に色を付けることができるのかも知れない。宮崎駿の見せてくれる超一流のアニメーションとは対極に位置する、未完成のもの。そこに感じられる可能性は、この作家の未来同様、とても大きいと思う。私達はこの作品をただ「見せられる」のではなく、一緒に作ることまで感じながら楽しめば良いのだ。そんな気分にさせられるのは、子供の頃の塗り絵本以来かも知れない。