neutron Gallery - 寺島 みどり 展 『 旅人の胸 』 - 
2006/11/27Mon - 12/10Sun gallery neutron kyoto
ニュートロンアーティスト登録作家 寺島 みどり (平面)

絵画とは、まるで人生のようなもの。毎日歩き続けて、終着点は未だ見えない。 その途中で目にする光景は遥かな地平と共に浮かび上がり、鮮烈な印象を残す。 ビビッドなコントラストとシンプルな構図、立ち篭める気配で評価の高い寺島が、初めてのニュートロンでの展示で胸一杯の気持ちを込める。 絵画の純粋なる旅路はどこへ通じるのか!?





comment
gallery neutron 代表 石橋圭吾

 残念ながら私は絵を描くことに長けてはいない為、子供の頃に絵筆を持ったきり、なかなかそれを試そうとも思ってこなかった。しかしこのような仕事をしている手前、少しは技法などというものも知る必要も感じるし、また、絵描きと言うものが何を考えて、どのようにして絵画作品を成立させるのかに少なからぬ興味を持っている。特にこの、寺島みどりの様なペインティングの作品を目の前にすると。
  寺島みどりが現在のような絵画作品に軸を据えたのは、実は比較的最近のことで、およそ2003年の頃からである。それ以前は絵画に限らず写真やミクストメディア、インスタレーション、パフォーマンスといった表現形態を次々と試みてはいたが、やがて自身の表現の可能性を絵画の大海原に見い出し、そこへ絵筆と共に飛び込むという一大決心をした様である。私も絵画以前の作品をいくつか知っているが、なかなかに強烈な(鮮烈な、と言った方が合うか)印象を残すものが多かった。多くは攻撃的な印象を与え、一見すると今の絵画作品の平穏(に見える)な印象とは離れているように感じる。しかし作家・寺島が一個人として当然の事ながら成長する過程において少しづつ洗練され、また表現形態や技法においてのみならず、作品を通じて誰かに何かを伝える・感じてもらうという作業の意味を(確かなものとして)認識できるようになった結果が、今の形、今の印象に辿り着いた大きな道筋なのは間違い無いだろう。寺島の場合、画面いっぱいに充満する色、ストローク、絵具、コントラスト、そして匂いや圧力は明らかにその作品に辿り着くまでの軌跡であり、正直に迷い込んだ状景であろう。これらの画面は迷い無く描かれることは少なく、多くの場合は塗り重ねられ、逡巡の結果浮かび上がる景色なのである。ほぼ全ての作品に存在する地平は遥か彼方のようにも見え、実はすぐ其処にあるのかも知れない。だが決して簡単に手が届くものではなさそうであり、しかし私たちはきっとその場所を知っているはずだとも感じさせる。タイトルもいちいち面白い。シベリアやカリフォルニアが出てきたかと思えば、なぜかシャラポアが登場する。もちろん、それらの名は絵画が成立して(作家が描くのをやめて)から付けられるものだろうから印象でしか結びつかないのだが、何となくその言葉にも引き付けられ、結果としてますます寺島作品の面白みは増すように思える。
  さて話を戻そう。私は絵を描かないが、もし寺島の絵筆の動きを一から追うことが出来たなら、また違った側面がこの絵画にも見出せるのだろうと思う。寺島が自身の絵を「旅すること」と位置付けるのも頷ける。絵画の経過はまさに作家の逡巡と浮沈の波にさらされる思考の旅路の過程そのものであり、そこには今までの人生、時には楽しいこと、時には辛いこと、悲しいことが知らずに織り込まれてゆく。そうでなければ私たちは絵を見て佇むことも無いだろう。絵画とは旅であり、ある瞬間の記憶であるという。しかしそれは永遠に途中であり続ける。なぜなら旅に終わりは無いように、絵筆を握り続ける限り、寺島の旅もまた続くのだから。まだ始まったばかりの旅ではあるが、さて今回はどこに連れていってくれるのだろうか、私の胸も旅人の胸のように高鳴る。