neutron Gallery - 木村 眞由美 展 - 『 In Her Shoes 』 - 
2006/12/11 Mon - 24 Sun gallery neutron kyoto


自身を被写体として用いながらファッションにまつわる考察をビジュアルで表し、ユーモラスでシニカル、時にグロテスクな印象を与える木村眞由美。
ニュートロン初個展となる今回は、「靴」をモチーフに写真を展示。
一見、何の変哲も無いように見えるそれらのポートレートは実は・・・?
クリスマスにぴったりの、ロマンチックで不思議な光景をぜひ。





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gallery neutron 代表 石橋圭吾

 男の一人暮らしではまず手に入らないような情報が、女性と暮らすといとも簡単に転がり込む。エステ、アロマ、ダイエットにヨガまで幅広い美容健康法からファッション、占いは言うに及ばず、女性誌には世の男性を震撼させるハウツーものが満載である。まさか男性に読まれることを前提にはしていないから、赤裸々で貪欲なそれら膨大な写真と記述を目にするだけで、数学や科学など吹っ飛ぶくらいの禁断の学問とすら感じられる。しかし不思議なもので、とても太刀打ち出来ないと諦めているつもりでも日々何となくそれらが目から耳から入り込み、少なからず知識となってしまうあたり、自分の密かな興味と知識欲?に驚いたりもする。・・・話を本題に移そう。
  木村眞由美の扱う主題はまさに、現代女性の必須とも言える「情報」から極めて近い位置にある。ただしそれらに盲目的に没頭するのではなく、一定の距離を置くことによって流行と時代の意識の変遷を客観的に観察しているスタンスである。だがしかし、一方では自身も一消費者としてファッションを愛する姿勢を失わず、それらは作品の中に反映される。演じる自分と、演じさせる自分、それを鑑賞する自分が存在しているのである。昨今、セルフポートレートや自らの身体を曝すパフォーマンス的な表現は珍しくないが、彼女の場合は身体はビジュアルの発端に過ぎず、その奥に広がるファッションやジェンダー、時代性といった考察を展開することが本来の目的である点で、際立っている。
 木村は主に写真を用い、自らの身体を使った様々なイメージを演出し、芯の強く印象的なメッセージを発する作家である。ビデオ作品も少なくない。これらビジュアル表現は言語よりもダイレクトに脳幹を刺激するからこそ、コマーシャリズムの手法ともリンクし合い、時代と響きあう。一方で作品タイトルやコンセプト文に目を移せば、驚く程のユーモアと毒が混じりあい、ファッションや時代性に考察を加える姿勢に鋭い着眼点を発見する。今回の展示写真もそうだが、ほぼ全ての木村作品においては少女の甘い幻想とグロテスクな悪夢が同居し、美醜ないまぜになりつつも最終的には「美」を選択している。「美」の先には必然としての衰え、即ち「死」の予感も漂うのだが、作者の思惑とは裏腹に?私は彼女の作品には強烈な「生(・性)」への渇望が感じられてならない。両者は対極に位置するものではあるが表裏一体とも言えるので、実はどちらに受け止めても正しいのかも知れないが。
 今回の『In Her Shoes』では「靴」がモチーフになる。男性の靴はサラリーマンの履き古した革靴や汗臭い運動靴くらいしか思い浮かばず、何とも発想の源としては貧困であるのに較べ、女性の靴のバリエーションは、やはり男性の比ではない。その形状、素材、用途、年令・キャリア別のそれぞれの成り立ちとストーリーが有るのだとすれば、靴はその人自身を反映していると言える。いやまさに、靴とはファッションの中でも最も身体に密接で神秘的で、寓話的なモチーフだと言っても過言ではなかろう。その代表的なストーリーとも言えるのが、皆さん御存知の「シンデレラ」ではないだろうか。ガラスの靴は不遇の少女にとって夢を叶える魔法の靴であったわけだが、同時に意地悪な継母や姉達にとっては屈辱的な悪夢を見させられた靴でもあった。
 さあ、ではここで木村が見せる靴には一体どんな魔法がかけられているのだろう?
 どうか目を凝らして、よく観察して頂きたい。