neutron Gallery - 齋藤 周 展 - 『 それでも優しい風は 吹く 』
2007/11/12Mon - 25Sun gallery neutron kyoto
ニュートロンアーティスト登録作家 齋藤 周  (平面、インス タレーション)

北海道から爽やかな風が、再びニュートロンに届きます。   大小様々な絵画のイメージが繋がって生まれる作品は、場所やそこで出会う人々と響き合い、新たなる旅へと向かうごとに変わっていく光景。 紅葉と呼応するかのような鮮やかな色彩と、植物的に連鎖する作品構造。 優しい風をぜひ、感じに来て下さい。





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gallery neutron 代表 石橋圭吾

  齋藤周は北海道は札幌在住の作家である。昨年の2月に京都での初めての発表となる個展をニュートロンで開催して以来、2回目の登場となるが、短い期間での再登場はそれだけ作品の評価が高く、人気を博したことを反映しての事だと言える。
 彼の作品は大小様々な大きさのパネル作品に描かれた連続性のある風景画が会場壁面に配置され、連結することによって、より世界観が広がりを見せる形態である。一言で言えば絵画作品によるインスタレーションと言えるのかもしれないが、私は彼の作品は会場全体に繁茂する植物的なものであり、そこに届く光や訪れる人々からも滋養をもらい、(時間さえあれば)じっくりと枝を伸ばして成長するような、単体の作品だと認識している。大小のパネルは独立することも可能だが、樹木における枝葉の様に、あるいは花や果実の様に、ハイライトでもありつつ、全体を構成する一部でもあるからだ。何より鑑賞者こそ、彼の描き出す光景の全景に圧倒されつつ、その内包するディテールの面白さに目を奪われずにはいられない。今時の作家は会場の特性を利用して展示を行うのは普通の事であるから、あえてインスタレーションなどと言わずとも、彼の作品の本質はまさしく「絵画」であると言っていいだろう。そしてその自由で伸びやかな描画は、繊細であり奔放で、絵を描く喜びと、作家から鑑賞者に向けての愛に満ちあふれている。
 愛という言葉を使うのはあまりにも乱暴で好きではないが、彼の作品を語る上ではどこかにその言葉を入れたくなる。恋愛、友情、夫婦愛に家族愛、はたまた人類愛など様々だが、どれかに特化しなくとも、彼の作品に包まれてみればきっと、まるで優しい太陽の日差しの中で葉をいっぱいに広げる樹木や色とりどりの草花に取り囲まれ、自分という存在が孤独だと言う事を「実感させられつつも」、同時に「その孤独な自分たちがどこかで繋がっている」ことを感じさせてくれるのだ。その「繋がり」をもたらすのはまさに愛である。陳腐に聞こえるだろうが、人があっての彼の作品であり、彼の孤独から生まれる作品は鑑賞者によって愛されることにより、花を開かせる。一方、その作品からどんなエピソードを抽出するかは鑑賞者の経験・心境に拠るが、パーソナルな感情が少なからず湧き出さずには居られないだろう。誰かに何かを伝えたい、そんな漠然とした思いこそ、彼の制作の根本(まさに根っこ)であり、植物的な繁殖の図式は齋藤周という作家の成長の図式でもあるのだろう。
 季節は紅葉の時季ではあるが、彼の作品は色づくことはあっても枯れることは無い。少なくとも彼が人に対して愛を失わない限りは、絵は鮮やかな色を帯び、あちこちで種を撒き、その会場において人々の視線と感嘆の声をもって育まれる。大きな壁面に作品を並べ、 描き、一つの樹木を完成させる過程は庭師の様でもあり、壁の白さを活かした構成は「間(ま)」を意識した清新な印象を与える。あふれんばかりの思いを抱えながら、一方できちんと作品を客観視しているからこそ、このような展示が現出するのだろう。詩的な個展タイトル以外に何の言葉も必要としない作品は、どんな言葉より雄弁に、繊細に私たちに語りかける。