西山 裕希子 NISHIYAMA Yukiko
【略歴】
2003 京都市立芸術大学大学院美術研究科 修了
【主な個展】
2001 アートスペース虹(京都)
2005 「seeing with blind eyes」 / 大阪府立現代美術センター(大阪)
2005 「Do you love me ?」 / gallery neutron(京都)
2009 「鏡のすき間」 / PANTALOON(大阪)
【主なグループ展】
2002 「京展 2002」 / 京都市美術館(京都)
2003 「ART CAMP in CASO」 / 海岸通ギャラリーCASO(大阪)
2005 「群馬青年ビエンナーレ'05」 / 群馬県立近代美術館(群馬)
2008 「P&E」 / ARTCOURT Gallery(大阪)
2005 「ACG Eyes 映像とドローイング - narrative -」 / ARTCOURT Gallery(大阪)
2005 「糊と蝋それぞれの表現」 / 染・清流館(京都)
2009 「ART CAMP」( 招待作家) / ギャラリーヤマグチ クンストバウ(大阪)
2005 「清流展」 / 染・清流館(京都)
2005 「青参道アートフェア」 / IOSSELLIANI T-02-IOS(東京)
2010 「VOCA 展 2010 - 新しい平面の作家たち -」 / 上野の森美術館(東京)
【賞歴】
2002 「京都市立芸術大学制作展」 市長賞 / 京都市美術館(京都)
2004 「第1回現代美術コンクール - 出会い系サイトとしての美術:森村泰昌とともに鍛える、あなたの表現」グランプリ / 大阪府立現代美術センター(大阪)
私は、人の意識には自己の存在を形づくる輪郭や領域といったものが存在すると考えています。
自己と他者の関係間にある心理的距離はときに近くなりすぎ、境界線を越え他者との境界が曖昧になり、それによって混乱を引き起こしてしまうこともあります。私はこのような人の関係性の間にある心理的距離の曖昧さ、またその様々な関係の中における、「私」とは何なのかという問いを抱いていました。
このような感覚や思考を手がかりに、日常の中で人の関係間に起こる心理的な同一化やイメージの投影、そこから起こる混乱など、人の関係性に起こる交錯した状況を、「物語」を一つの要素として普段と異なる角度から世界を捉え直し、人物像を含めた一つの場面に置き換え描いています。
そこでは人々の間で長く語られた神話や物語がもつ、人の心に存在する元型的・象徴的イメージを探り、性差や家族関係など様々な交差する関係性をもった現代の世界の中で、人の心理に起こる現象に輪郭を与える事をこころみ、そして作品と世界との間に新たな物語を紡ぎ出すことができないかと考えています。
こうしたテーマをもとに、布に写真や寓話的なモチーフをパターン化したインクジェットプリント、あるいは染料を蝋によって防染する方法で描かれた平面作品、また石膏で型取った手鏡や姿見の鏡中に写真を重ねた立体などを制作し、それらを空間に構成し表現しています。
これまでこの染色技法を使い続けているのは、まず染料を蝋で防染する行程に理由があると考えています。この方法は、布に描く線の部分だけを残して溶かした蝋を筆でおき、その線部分の隙間に染料をさして線を描いています。描く線は蝋がおかれる瞬間に決定的なものになりますが、蝋を落とすまでは、描いている線をはっきりと見ることができません。このように線を描くのに幾つもの段階をふまえる事は、直接線を描く時にあらわれる身体性とは違い、私自身によるものでありながら自らの意図から独立する線となり、私が考える心理的距離を表すのに適していると思っています。また、染料という本来水に溶けて滲むものを、蝋を用いて滲みを防ぐことで人の姿を表していますが、この間接的な描写法を経由して描かれる線は、私が日常に意識されることや思考から、人の関係性やその中に生じる心理など曖昧な境界を辿り、それを人物像の輪郭に置き換えてゆく行為と共通するところがあると感じています。