墨によって綴られる艶やかな作品達・・・。
祇園祭にもぴったりの、トラディショナルでエキセントリックな企画展。
gallery neutron 代表 石橋圭吾
今年の1月に企画された「46/96」(白黒)展において、絵画、写真、立体、音楽など様々な方面の作家が白黒というモノクロームの世界において新しい試みを提示し、結果として普段の制作とは違うアプローチで面白いアイデアが見られた。今回の企画はその中でも特に異色の存在で際立った宮島亜希の作品から端を発している。宮島の、半紙に墨汁で女性の顔を一気に書き上げる作品は来場者の高い関心を惹き付け、魅了したのであるが、彼女に限らずとも高いクオリティーで「墨」を用いての作品制作を行う作家を知るにあたり、ぜひこのような「墨」作品をテーマにした企画をしようと思い立った次第である。
もうひとりの若手女性作家、峯彩呼(みねあやこ)も、先日ギャラリーマロニエにおいて墨汁を用いての個展を開催したばかり。「墨彩展」と題されたそれは、単なる水墨画の域を超え、コラージュ、デザインそして平面の可能性を探るスタンスで評価も高かった。さらに愛媛県松山市在住の異色作家、濱田悠玄も若干23歳のホープである。彼は墨であろうとアクリルであろうと多彩な才能を発揮し、地元では高い評価を受けている。今回が京都での初のお披露目となるであろう。これら3名の若手に、木下楳洸・三浦スミヱという二人のキャリアの有る書家のユニット「游墨」を組み合わせて、「書」、「水墨画」、「グラフィックデザイン」の領域を接点にしながら従来の古典的な墨のイメージを打破することが目的である。
作品内容は「墨」を使うという以外、特に制約を設けていないため、各自の持ち味が存分に発揮されるであろう。グループとしての統一的なインスタレーションとしてのまとまりよりも、むしろ「墨」の可能性をあらゆる角度から探ることに主眼を置いている。宮島は今回も大胆で繊細な女性の顔のドローイングを出展予定。峯は平面作品としての表現の中で墨の色彩と味わいをベースに金箔やコラージュ的な手法で楽しませる。濱田は若さ溢れる勢いと、実力派作家としての両面性を兼ね備えた迫力の作品になるはずだ。そして「游墨」は、4枚組の半紙による文字と象形の作品によってその実力と新しい試みを見せてくれる。
折しも季節は祇園祭まっただ中。老若男女誰でも楽しめる、一見古風な、しかしよくよく見れば斬新で独創的な企画であることを願う。