日本画の域を超え、会場を包み込む良質な「気」を発生させる注目の気鋭作家の渾身の展示。人・自然・水・内面・時間がひとつに繋がり、押し寄せる「波(ウェーブ)」は我々の五感を刺激する。「振動」や「意識」、「空間」に影響をおよぼし、人間の静かなる内面に染み渡るその作品世界は、「アンビエント・アート」と呼ぶにふさわしい。
gallery neutron 代表 石橋圭吾
本当に実力の有る作家は、自己の活動のための環境・時間をコントロールし、発表における計画を綿密に立て、それを実行できる能力を持つ。そういう意味で、大舩は若くして既に実力派と呼んで良いだろう。もちろん、彼の発表する作品群が素晴らしいということが大前提として有るからであるが。
岩絵の具や墨、顔料を用いる手法は「日本画」的だと言えるが、果たして彼の作品を「日本画」の範疇で語るのはどうかと思う。花鳥風月を愛で、自然と己を向き合わせての制作姿勢も、古来からの「日本画」的と言えなくも無い。が、あえてどの範疇に括るか等後回しにしてみることにする。
迫力の大画面に振動する絵画はまさに彼の真骨頂でもあり、色彩もマチエールも、一つの「波(ウェーブ)」となって我々に迫って来る。人・自然・水・内面・時間がひとつに繋がり・・・と彼自身がいうように、まるで作品が振動を起こす装置のように会場の空気を緩やかに動かし、対峙する人間の脳波にさえ働きかけてくるような気になる。
音楽の世界で特にここ最近、使われ出した言葉に「アンビエント」という言い方がある。直訳すると「環境の」とか「周りを取り囲む」と言った意味しか無いが、ここでは「包み込まれるような」あるいは「音が振動として人間に心地よい状態を感じさせる」という解釈で使われる。難しい言い方なので、平たく言えば「ヒーリング」だの「癒し系」だのと言えるのかも知れないが、それらのフレーズが最近無闇やたらに使われ出して軽い感じがするので、敢えてそういう言い方はしたくは無い。その「アンビエント」な音楽は、ひとりで自宅に籠って聞くのもいいが例えば町中のクラブ会場の中に麻布をめぐらせてお香をたいて雰囲気を醸し出して聞くのもいいし、あるいは野外でのレイブパーティー(ダンスミュージックやロックなどのアップテンポな音楽が中心)におけるサブステージとしての会場で聞いたりするとより効果的であったりする。特徴的と言えるのは、「音」を「メロディー」や「リズム」と言った単次元的な捉え方で無く、「振動」や「空間的広がり」という多次元的な見方で(聴き方で)捉えていることだろう。
そこで私は、大舩の作品を「アンビエント・アート」と言うことができるのではないかと思う。基本的に、彼は平面作家である。インスタレーションと称することはあっても、立体や彫刻的では無い。あくまで「平面」的な試みを続けているのだが、その意識は平面には収まらない。先程から述べているように、「振動」や「意識」「空間」に影響をおよぼし、人間の静かなる内面に染み渡るその作品世界は、「癒し」などの凡百の表現では表せない。
今回は、ニュートロンとしても久々に5階と地下の両会場を使った展示になる。はじめは大舩も私も、両会場における別々の趣向と仕掛けを考えてはいたが、現時点ではその大きさの違いを区別しての展示にまとまりそうである。巨大な作品は地下に横たわる。何より「作品」を見せる、そしてその「影響」を感じさせる、この2点を成り立たせるために、インスタレーション的な手法はとらないことにした。力の有る作品に小細工は無用。日本画の域を超えて我々の心を動かす「アンビエント・アート」をとくとご覧あれ!