ニュートロンアーティスト登録作家 ALEX ASHTON (版画、染織など)
イングランドから、アレックス・アシュトンが5年ぶりの来日! 版画、テキスタイル、服飾などの要素を用いながら、日本人の感覚にも通じる繊細で叙情的な印象の世界を提示。
画面に生じるコントラストが調和と違和感を生じさせ、皮膚感覚を経た服飾作品は、「服」としての存在と素材としての両面で成り立つ。満を持して登場する作家の待望の新作展、ぜひお見逃しなく!
gallery neutron 代表 石橋圭吾
アレックス・アシュトンはイングランドのランカスター在住の、女性作家である。「アレックス」という男性的なファーストネームは作家名としてのものであり(普段の愛称でもある)、本名はアレクサンドラと言うらしい。イギリスは男性社会で、美術の世界でも女性作家だと「なめられる」から、意図的に男性的な名前を使っているのだと以前、聞いたことがある。しかし名前はともかく、この作家の作品は繊細で叙情的で、世界のどこの国においても女性的だと受け取られることはまず間違いないだろう。ただ、男女の別は作品の本質とは直接的には無関係である。
彼女との付き合いは実に5年以上も前に遡る。ニュートロンが新京極三条にて始まり、ビルの5階のスペースでは足らず、地下1階の空間を企画ギャラリー兼アートショップとして利用しようと計画している最中に京都滞在中のアレックスと出会い、地下ギャラリーのオープニング企画展として個展を開催する事を決め、まさに2002年9月、フロア自体は完成とは言えない中、ギャラリーのこけら落としとして(5階会場とも連動して)初の個展を開催した。その際には彼女は来日し、会期中ずっと京都に滞在していた。次に個展をしたのは翌年(2003年)で、その時は残念ながら来日はしなかったが、大量の版画作品を壁面いっぱいに敷き詰める展示形態、そしてテキスタイルから服飾までの要素を取り込む多様な技法とスタイルは、多くの支持を得た。そして今回、実に5年ぶりの来日が実現することになる。
先に触れた通り、彼女の作品の持つ繊細で叙情的な要素は、日本人がイメージする「イギリス」的なスノッブでスタイリッシュなアートとは一線を画し、実に有機的で温かみを感じさせ、結果的に日本(特に京都だからか?)においてすんなりと受け入れられているように見える。日本人の持つ細やかで内向的な感性と響き合う部分が多いのだろう。しかし一方では素材(紙や布、金箔など)の使い方を見ると、意外にも淡白で雑な扱われ方(に見える)が多い。その辺に、やはり気質の違いを感じることも出来る。さりとて彼女の主な技法である版画において、技術的な裏づけをしっかりと感じさせてくれる。
素材や技法よりむしろ、そのスタイルが日本人に近しさを感じさせるのだろう。シルクスクリーンによる同一のイメージの多現性の中に、まさに日本画の「琳派」のデザイン性、韻律を見ずにはいられない。色調こそ原色を多く使い、コントラストを際立たせ、画面の中に調和と違和感を同居させる事を狙いつつ、一方で全てが高い次元で響き合い、洗練されているからこそ、付け焼き刃のような日本文化嗜好に留まらない。いや、彼女は決して日本文化からの影響を表立って主張してはいない。むしろ彼女が表そうとする世界、及びそのスタイルが日本人の持つそれらに近いからこそ、共鳴しあっていると言えるのかも知れない。
今回のタイトル、"bespoke"とは「(服などの)あつらえ、注文」を意味する。副題のmade to measureも同義語である。実際、届いた画像には服の形をした作品も多い。身につける衣服を支持体とし、あるいはその存在を通じ、彼女はどんな共感を生むだろう。そして、誰のための「あつらえ」なのか、気になるところだ。