ニュートロンアーティスト登録作家 池田 孝友 IKEDA KOSUKE
精緻で独創的なペン画によるドローイングは、大胆な構成と卓越したディテールによって、見るものを異次元の風景へと軽やかに誘う。
イラストレーションとしての汎用性と美術としての信頼性を兼ね備え、多方面で評価を得る。
普段見慣れた光景が彼の手にかかるとき、極彩色のパターンと色気を帯びた線により、まさに「驚きと調和」の世界へと変貌を遂げる!!
gallery neutron 桑原暢子
移転前のニュートロンでは一度個展を、そして文椿ビルヂングギャラリー(回廊式ギャラリー)では一年に二度個展をするなど、池田孝友はニュートロンととても縁深い作家である。これまでにも多く発表してきたように感じるが、実は移転後のニュートロンでは初めての個展である。また彼の作品はギャラリーでの展示という発表形式だけではなく、雑誌や広告、メディアにも作品が使用されている。多方面での活躍も目覚ましく、一度は見た事があるという方も多いのではないだろうか。
雑誌で見る池田の作品。平面らしい奥行きを持たせつつ、細やかな線描によってページを華やかに見せる。しかし雑誌を見る時、ページと観る者の物理的な距離はほぼ変わることがなく、遠く離したところで自分自身の腕の長さくらいだろう。実は池田の作品において「作品と観客との物理的な距離」とはとても重要なポイントなのである。彼はゲルインク・ボールペンを使用し、一種のパターンを描き、線だけを使って面を作り上げる。その制作行程は見るからにとても繊細なものである。あまりにも緻密な線の集合体なので、近づいて見るのか、遠くから見るのか、それだけでも作品の印象は変わってくる。前回のアミューズアートジャム2008 での作品では、横3m 程の横長い紙を支持体に作品を展開した。少し引いてみると、どうやら四条界隈の川床を川端通りから眺めている構図であることがわかる。アウトラインがはっきりとはしないながらも、一色ずつ塗られたであろう面によって一つの風景が出来上がっている。しかし、近づいて凝視してみるとそれは全てが線のみで描かれていることに気付く。それと同時に先程まで見えていた面は姿を消してしまう。そして再び全体像を把握出来る程の距離をとって作品を見ると、先程までは見えていた線は見えない。このように、彼の作品において、距離とは作品自体の見え方が全く変わる程非常に重要であり、またそれだからこそ面白いのである。
近くから、遠くから。見る位置によって姿が変わる(ように感じる)池田の作品の醍醐味はやはり「線」である。もちろん、面のように見えるものも実は線の集まりであるからして、彼の作品の大部分は線なのだが。線の一本一本を至近距離で眺めてみると、不思議なことに踊っているかのように生き生きとしているのだ。特に鉛筆による線の表情の豊かさには驚かされる。雅な雰囲気、妖艶な表情、軽やかに踊るように飛び跳ねている線、そして子どものようにけらけらと笑っている線。その多種多様な表情を見ていると自分がどれ程の間、鼻がこすれてしまうくらい近くで見ていたかさえ忘れてしまう。一本のシャープペンシル、それは自分でも使用したことがある道具である。そのような日用品から生まれるとは思えない程、美しく、そして楽しげな表情を醸し出す線なのだ。
今回はニュートロンのギャラリースペースでの初めての個展である。ギャラリーはカフェからも俯瞰でき、それは観客と池田の作品との間にとることができる最長の間である。面と認識し、線であることに気付く。それはまさに「驚きと調和」であり、その繰り返しこそが池田作品の見所であり,見飽きない要素の一つなのだろう。