兵庫県立美術館 企画・学芸部門マネージャー 河崎 晃一
益村千鶴は、フランドル絵画が好きだという。モチーフには、その影響は見られないが、油彩画が確立された中世の技法や画材に興味を持っていることは、その描き方のこだわりから見える。油絵の具を何度も塗り重ねで深めていく技法は、長時間のテンションを保つことが必要であり、彼女は決して多作ではない。
自らの身体の一部分や植物を切り抜いたかのように描かれ、私たちの日常とは、かけ離れた情景を見せてくれる。彼女の描く絵画は、細密な描写、つややかな画面から、まるで静かな吐息が聞こえてくるようである。その描写は、見入る人を拒絶するような、冷たい情感を持っている。すべてが完結して、他者が入り込む余地がない。あまりにも冷ややかで醒めた時間を示してくれる。私は、そこにやさしさやあたたかみを感じ取ることが出来ない。その拒絶感にも似た画面の表情が彼女の絵の魅力なのだろう。
約2年ぶりのニュートロン京都の個展は、「Tenderness」と題される。彼女自身が「近作は、情感のあるものが多い」と語るように、これまで私たちが目にしてきた作品とは、異なった姿勢で描いている。これまでが、突き放した情感をあらわに表現していたことに対して、今回は、タイトルの意味である、単なる「優しさ」だけではなく、別の意味でもある「感じやすさ」「かよわさ」も描きたいという。そこには、彼女自身のゆるやかな感情の動きがあるのかもしれない。彼女自身が持っている秘めた感情を息づかいとして新作が生まれてくる。それでも内面から湧き出るモノを押さえながら、彼女がゾクッと感じる瞬間を楽しんで描いている。そこに表れるモチーフは、私たちに何を伝え、感じさせるのだろうか。
絵画とは、仕上げるものではなく、生み出すものであることを教えてくれる。
益村 千鶴 MASUMURA Chizuru
【略歴】
1972 山口県生まれ
1993 比治山女子短期大学美術科卒業
現在、大阪在住
【主な個展】
2004 「a long time ago...」 / GUILD GALLERY(大阪)
2002 Art Garden(岡山)
2005 「a gust of wind went through...」 / Pantaloon(大阪)
2002 「a gust of wind went through...」 / gallery K arts(大阪)
2002 「adagio」 / ベルギーフランドルセンター(大阪)
2006 「Remembrance」 / galeria CERO(大阪)
2007 gallery CLASS(奈良)
2008 「Esperanza」 / gallery neutron(京都)
2009 「Vestige」芸術センター記念受賞作家展 / 芸術センター神戸(兵庫)
2002 「faint light」 / neutron tokyo(東京)
【主なグループ展】
2003 sumiso(大阪)
2007 「Gallerism」 / 大阪府立現代美術センター(大阪)
2008 「芸術センター記念絵画公募展」(東京・神戸・福岡)
2009 「第28回損保ジャパン美術財団選抜奨励展」 / 損保ジャパン東郷青児美術館(東京)
2002 「ULTRA」 / SPIRAL(東京)
2010 「韓日現代アート交流展」 / ブミアートホール(釜山)
【受賞】
1999 「欧美国際ドローイング・デッサン・版画コンクール」 ・ 入選
2005 「第22回FUKUI サムホール美術展」 ・ 佳作
2006 「第23回FUKUI サムホール美術展」 ・ 奨励賞
2008 「芸術センター記念絵画公募展」 ・ 審査員賞