展示作家:植松琢磨、遠藤裕美子、人長果月、宮永愛子
今や関西のみならず全国的に注目を集める気鋭の作家4組による、「ハネ」をテー マにした展覧会。春を待ちわびるこの季節、飛び立とうとする羽根、ステップ(跳ね) しようとする勢いを感じられるでしょう。5階では植松の立体作品と遠藤のビジュア ルイメージ。地下では人長のインスタレーションと宮永の立体が同居します。アート ファンならずともぜひ見て頂きたい企画です!
gallery neutron 代表 石橋圭吾
まだ春と言うには肌寒い季節ではあるが、土の中では着実に新しい芽が育ち、昆虫達はじっと出て来るタイミングを見極め、冬が終わるのを今か今かと待ちわびている3月。あるいは大学生の多い京都では、芸大・美大に関わらず卒業あるいは入学を控えて、新生活に対する不安と期待が交錯し、何とも言えない華やかさと寂しさの漂う季節。「ハネ」というタイトルをこの展覧会に付けようと思ったのは、そんな季節だからこそ。
ここに集う4名の若きアーティストは、関西では少なからず注目を集める新進気鋭の者ばかり。お互いに出身も分野も違う者たちが自発的にグループ・ショーを行おうと言い出すきっかけになったのは、昨年の4月から5月にかけて大阪のART COURT GALLERYにて行われた「ART COURT FRONTIER 2004」への推薦による出展参加が発端でした。関西で活躍する多彩な新鋭を集めたこの企画グループ展において彼らは作品制作はもちろんプライベートな話を交わす程親密なコミュニケーションを育み、自分達で新たに展覧会を行うことを発案したのです。そこで相談を受けた私は、単なるグループ展に留めては勿体無いと感じ、力の及ぶ範囲でディレクションを行うことを約束し、忙しい4名との打ち合わせをどうにかやり繰りし、ようやく実現に漕ぎ着けます。彼らの個々の制作の本質と向き合う内に強引なキュレーションはかえって妨げになると感じ、「ハネ」という極めてシンプルで、それでいて自由な発想を促すテーマを導き出すことが出来たのです。言う間でも無く「ハネ」は「羽根」であり、「跳ね(ステップ)」でも有ります。4名の今後の活躍を大いに期待、いや確信させるような新作が集う事を願って止みません。
植松琢磨は出版社勤務を経て作家になるという変わったキャリアを持ちますが、その雑食性とも言うべき意識の及ぶ範囲の広さは特筆すべきものがあり、プランニング、デザインからクリエートに至る現代の美術のフローを軽やかにこなすのです。今回のテーマ「ハネ」は彼にとって最も想像(創造)しやすいテーマだったかも知れません。遠藤裕美子は個展等の経験は少ないものの、パフォーマンスやコラボレーション等多彩な制作と発表をこなし、そろそろ自らの核となるイメージの形成と提示が期待されます。原田リョータとの合作が印象的ではありますが、彼女本来の問題意識がビジュアルイメージとしてどのように出されるか、楽しみです。この2名は5階会場にて展示を行います。
人長果月は今や若手の中でも最も実力を認められる映像・インスタレーション作家と言えましょう。作品と鑑賞者が関わる事によって劇的に変化するインタラクティブな発表、華麗な色彩の裏に潜むイメージの多様さは単なるメディア・アートを凌駕するしなやかな力強さを備え、見る者を魅了します。今回地下会場において、窓際に揺れるカーテンに映像を投影し、飛び立とうとする「ハネ」の行く末を連想させます。同じ部屋の奥には、宮永愛子によるナフタリンの「はね」が。日比野克彦との合同展も終えたばかりの作家は、果たしてその羽根を少し休めに来るのか、それともさらに大きく羽ばたこうと広げるのか。見えない時間を表現する作家のイメージの世界は今回も繊細な美しさと儚さを発揮するでしょう。地下の会場は薄暗い中に、窓と鳥篭、そしてハネが軽やかに存在するのです。