陶を用いて視覚にまつわる様々な問いかけを発する異色の新鋭が初個展・初登場。私達のイメージする陶の用い方から逸脱し、その特性を活かしたユニークな試み。今回はタイトルの示す通り、「シンメトリー(対称)」をテーマに発表を行う。敷き詰められたタイルから浮かび上がるのはメッセージか、それとも??
gallery neutron 代表 石橋圭吾
「陶」を使った表現と言えばたいてい、壺やお皿などの道具類か、あるいはオブジェと言われる様々な立体造形をイメージすることが一般的であろう。しかしここに紹介する、京都精華大学博士後期課程に籍を置く中村裕太は、物としての作品ではなく、「陶」にまつわる素材あるいは手法を用いていかにも現代的な視覚の問題意識を提起し、平面的にも立体的にも訴えかけようと試みる。
「陶」における平面的要素とは、もちろん視覚で捉えられる形状もそうだが、何と言っても表面の色彩や質感である。土を窯で焼くという単純な作業において、私達の知っている以上に実に様々な技法や素材が用いられる事により、「陶」というメディアには現代に通用する表現手段としての可能性がまだまだ沢山隠されていることを気付かされる。釉薬(ゆうやく)と呼ばれる「うわぐすり」の種類は万別で、さらにその焼成方法によっても定着する色彩は微妙に変化する。いや、熟練によって変化させることが出来る。一見、ただのひび割れに見える茶わんや湯呑のそれは、実は「貫乳(かんにゅう)」と呼ばれる手段でもあり、陶の世界を象徴する人為と自然現象との結びついた形でもある。これら比較的知られた手段以外にも、陶の世界において視覚的に楽しむことが出来る要素は、無数に存在するのかも知れない。
中村は、「陶」のこのように実は幅広く奥の深い「視覚メディア」としての側面を際立たせ、自らが提示する疑問とダイレクトに結び付けてみせることにより、私達の持つ陶の固定されたイメージを打破するだけでなく、視覚のトリックを時にはエンターテイメントにまで昇華させている。カラーチャートのように並べられたタイルの小片は、一見すると釉薬の量や焼成方法による色の変化を示しているつまらないものに感じられるが、実は彼が仮説の上に成り立たせた山の色彩の印象の構図だったりする。また、テーブルの上に積まれたり散らばったりしている陶のコップ、蓋、筒などの形状のそれらは、やはり微妙なグリーンの色調を身に纏い、タイトルの「planter」とはまさに「鉢植え」のことを言い、植えられた植物の印象を表していたりもする。
そして今回、初めてニュートロンのギャラリーに登場する彼は、空間におけるタイルの存在感と平面としての成り立ちを最大限に活かしつつ、彼独特のひねりを効かせたインスタレーションを行う。ネタをばらすのは面白くないが、既にタイトルとコンセプトに出されているので、今回は「シンメトリー(対称)」がテーマであることは間違い無い。そもそもタイルの紋様には古くからそのような図案が多く、建造物の中に織り込まれることによって生活の身近に存在してきた。しかしそこだけを凝視し、抽出する行為はきっと珍しい試みなのだと思われる。陶という素材の持つ質感と空間における(平たい)立体的存在感、シンメトリックなデザイン、反復される図案、そしてそこから浮かび上がる「何か」は、私達に日常の中からの意外な発見をもたらそうとするだろう。そう、エッシャーが描く騙し絵の裏に緻密な計算が隠されているように、あるいは(私が)風呂場のタイルやトイレの壁のパターンに目を奪われるうちに、時として前後不覚に陥るように。