neutron Gallery - 高須 健市 展 『 S U R F A C E 』 -
2010/2/2 Tue - 14 Sun gallery neutron kyoto


Works1
【 ***菌 】
2002年 / mixed media

私は、菌を培養した。この菌は人畜無害ではあるが、ある一定の条件を満たした時に増殖する菌である。その菌は期間中に増殖を続け、展示台を伝わり、床にまで増殖し、最終的には他人の作品にまでも感染していった。私は、ギャラリーから警告文を掲示され、さらにこのギャラリーをしばらくのあいだ利用することが出来なくなってしまった。
しかし、この菌は“ ボンドに赤い顔料を混ぜて固めただけ”の偽りの菌である。私は、その偽りの菌を会期中の誰もいない時間を狙い、少しずつ自分自身で増やして、あたかも菌が増殖したように見せかけたのだ。当初、鑑賞者は嘘くさい形や色のこの菌を偽者として観ていて信じようとはしなかった。しかし、ギャラリーから警告文が掲示された時、一変して鑑賞者はこの菌に危機感を覚えたという。
だが、実はその警告文さえも私が作成した偽りの文である。ギャラリーの者に交渉して、自分が作った警告文を掲示してもらったのだ。全ては何もかもが私が造り出した現実である。
何が真実で、何が虚実なのか。







【 ある池より 】
2002年 / mixed media

ここは愛知県の犬山にある“ 入鹿池”という池。
昔、ここには入鹿村という村が存在していた。それが約35 0 年前、この場を田んぼ等へ水をひく貯水池にする為に入鹿村の住人は数両の銭や免罪などと引き換えに移住させられた。そして、この村は“ 入鹿新田”“ 丹羽郡前原新田”“ 奥入鹿村”“ 神尾入鹿新田“ 菊川新田”の5 ヶ所に分けられて現在も存在している。この村はそういった歴史によって作られた池という事だった。
私は、竹筒を池に浮かべ、それを桟橋の先に設置した。竹の筒先からは鳥や犬の鳴き声、車の音、子供が遊んでいる声といったような村の風景音が響いている。その音は、先程述べた移住した村が現在どこに位置するのかを私が一つ一つ調べて、5 ケ所の村の音を録音し編集して、5つの村の風景音を一つにまとめた音である。
池の底から、本来であれば現在聞く事ができたかもしれない村の風景音を聴く事で、ビジュアル面では存在しない町の風景が鑑賞者の頭の中で観えてくる。





 

【 Good-by Netherlands 】
2003年 / mixed media

2003年、オランダのフローニンゲンで開かれる展覧会に出品することになった。
私は出国する前にオランダという国を調べた。オランダという国は国土の4分の1が干拓で出来ており、「世界は神がつくり賜うたが、オランダはオランダ人がつくった」という言葉まであるという。しかし、ここ最近の地球温暖化による海面上昇により、将来ほとんどの土地が水没するといわれ深刻な問題にもなっている。
私は、オランダの街を徘徊しながら教会の鐘の音、若者が自転車で颯爽と走っている音、店内の店員と客とのやりとりの声、信号機が点滅する音等の様々な風景音を録音し、その街の音をこのギャラリーの壁の中から流した。そして、床下には水たまりを張った。この水たまりはそれらの音に反応して波紋が広がるようになっている。
この時、スピーカーを水たまりに直接浸けていた為に、あたかも海底に街が沈んだような音が響いた。「さようならオランダ」







【 Netherlands 】
2003年 / mixed media

『Good-by Netherlands 』と同じコンセプトで日本での展示用にアレンジしなおして展示した。このスーツケースはオランダを旅行した時に実際に使用していたものである。
このスーツケースの隙間からは水が常に溢れて漏れており、その水は作品はもとより床までも水浸しにした。同時にスーツケースの中からはオランダで録音してきた街の音が響いており、その街の風景音はギャラリー内を満たした。
ちなみに、「オランダ」の英訳の「Netherlands 」という言葉には「干拓された国」という意味も含まれているという。